短編集でどの作家の何が好きかと問われれば、現時点では米澤穂信の「儚い羊たちの祝宴」を挙げます。雰囲気といい、読み心地といい、とても綺麗で好きなんですよね。
ネタバレが気になる方はここでお引き帰し願います。
儚い羊たちの祝宴 あらすじ

夢想家のお嬢様たちが集う読書サークル「バベルの会」。夏合宿の二日前、会員の丹山吹子の屋敷で惨劇が起こる。翌年も翌々年も同日に吹子の近親者が殺害され、四年目にはさらに凄惨な事件が。優雅な「バベルの会」をめぐる邪悪な五つの事件。甘美なまでの語り口が、ともすれば暗い微笑を誘い、最後に明かされる残酷なまでの真実が、脳髄を冷たく痺れさせる。米澤流暗黒ミステリの真骨頂。
感想(ネタバレなし)
短編集とは言うものの、各話独立しているわけではなく、お金持ちのお嬢様が集う読書サークル「バベルの会」の存在が軸になっている。
主役級の登場人物は全て良家のお嬢様(又は旦那様)とその使用人で、今より少し昔の日本を描いているのか、描写や話し言葉がとても丁寧で美しく、古き美しき日本を感じます。
江戸川乱歩や横溝正史の幻想的で怪しい雰囲気がそこはかとなく漂っているので、この二人の作品が好きな方にとてもおすすめのブラックミステリーです。
逆に氷菓から読んだ人は、全然路線が違うのでぎょっとするかも。
私はぎょっとしたクチです。良い意味で。
帯にも書いてある通り、各話の終わり方が非常に素晴らしく、一話終わるごとに終わり方が綺麗すぎて悶えますわ。
特に気に入っているのが、「身内に不幸がありまして」と「玉野五十鈴の誉れ」です。
最後の1行を読むと背筋がぞくっとします。
あまりに綺麗な日本語で紡がれるので、ブラックミステリーということを忘れて読み耽ってしまい、忘れたところで突き落とされる感じ。
バベルの会が軸になっているとはいえ、各話の繋がりは薄く、結局バベルの会って何なんだろう?と思わせておいて、最終話の「儚い羊たちの晩餐」で短編集にちゃんとオチがついているところも良いです。
本当に短編集としての完成度が高い。こんな話を大量に読みたい。
呟き(ネタバレあり)
ここからネタバレありです。ご注意ください。
全編通して描かれるちょっと古風な主従関係(主人に忠誠を誓って仕えるやつ)がめちゃ素敵でした。金田一少年の事件簿の影響か、昔から住み込みの使用人に憧れがあるんですよね。
なので、「身内に不幸がありまして」は、背筋がぞっとしたものの、犯人が分かったときは哀しかったです。
逆に「玉野五十鈴の誉れ」は理想の主従関係でしたが、五十鈴さんは帰ってくるのか来ないのか。
あと、「山荘秘聞」だけは人が死んでいない…?レンガのような大金で買収したってことでいいんですよね?
この使用人さんの狂気じみた使命感がぞっとしますが、こんだけ没頭できる天職に出会いたいものだわ。
そして、「北の館の罪人」は、主人公の性格がとても好きです。
わたしは、そういう甘ったれが、殺したいほどに嫌いなのです。
あなたそんな性格だったんかーい。
その前の、兄妹しんみりシーンが台無し( ゚Д゚)
最終話、「儚い羊たちの晩餐」は、厨娘もメデューサ号の筏もアミルスタン羊も知らなかったのですが、知ってる人が読めばすぐ結末が分かったんですね。
メデューサ号の筏の絵が想像を超えて大きかった。あれを飾るのは確かに悪趣味。
わたしは、で物語が途切れたのは何故なのか。
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